NARC通信 第2号

NARC通信 第2号

平成15年8月28日発行

  

ラオス点描--お守りとしての漁具--

ラオスには現地語でサイと呼ばれる漁具がある。これは日本では筌(うけ、うえ)
と呼ばれており、細い割竹を編んで作ったロウト状の漁具である。日本でもかっては水
田漁労に使われていた。水田の取排水口に仕掛けておくと、出入りする水の流れに乗っ
て移動する魚を自動的に獲ることができたので、農繁期においても簡単に魚獲りができ
る便利な漁具であった。ラオスでは現在でも水田の取排水口や細い灌漑用水路などでタ
ウナギや小魚を獲るのに使われている。また、南部では雨期にカエルを捕るのにもサイ
が使われているそうである。

ラオスではこの漁具は魚を獲るだけではなくお守りとしても使われている。竹細工屋に
は必ずサイが売られている。これを農民だけではなく、町の人間も買っていく。家の建
前の時には柱にサイをくくりつけて工事の安全と、建てられた家に幸運が来るように祈
る。商店やレストランでも柱や天井にサイを取り付けているところがたくさんある。サ
イに魚がいったん入ってしまうと出ていけないことから、運が来て逃げないという発想
であろうか。

レストランの天井に飾られたサイ


NARC勉強会

8月22日にNARC勉強会を轄総ロ水産技術開発で開きました。前回に引き続き
Townsley, P. 1993. A Manual on Rapid Appraisal Methods for Coastal Communities.
Bay of Bengal Programme. 109p.
を皆で読みながら議論し、そのあとそのあと大平さん(東京大学大学院)がベトナムと
ラオスで行った小規模養殖に関する調査の話をしました。出席者は7名でした。

Rapid Appraisal(RA)についての議論
(1) RAのような方法を採ったとしても、プロジェクト対象地域の人々にとっては、政府
機関、外国援助機関、NGOなどの外部からのアイディアの押し売りになることにかわり
はないのではないか。たとえば乳幼児死亡率が高いという問題は、解決しなければなら
ないことが自明のことのように考えられている。しかし、そのような自明と見えること
ですら、客観的に考えると外部の人間の見方であって、かならずしも地域住民がそれを
改善すべき深刻な問題としとらえているとは限らないのではないか。

(2) RAがいかに柔軟性のある方法であったとしても、このような調査のマニュアル化は、
結局はJICAのPCM (Project Cycle Management)やさらにはマクドナルドやディズニーラ
ンドの業務マニュアルの思想の延長線上にある。作業者はマニュアル通りにやったという
ことで完全に責任を果たしたと考え、それ以上に自分の頭で深く考えることを中止してし
まう。作業に関する責任はすべてマニュアルが負っており、マニュアルの持つ権威が外部
からの批判に対する防壁になると考えられている。マニュアルという世界基準あるいは日
本基準にそって行われたことだけで業務が正当化され説明責任が果たされたとされるので
ある。したがってマニュアルの権威付けには多くの資金やエネルギーが注入される。

(3) 地域の内発的な改善への意欲を引き出すことが重要で、そのための一つの方法として
RAを使う必要がある。その場合、外部から資金や物資などの形で支援を投入することをあ
らかじめ地域住民に知らせておかなくても、RAに参加する意欲を引き出すことができるだ
ろうか。

(4) RAの諸手法が開発途上国でどのように使えるのか我々自身が実際に試してみる必要が
ある。そのための適切な地域や支援課題をベトナムやラオスなどで見つけることができる
だろうか。

大平さんからの報告
(1) ラオス(ヴィエンチャン近郊)とベトナム(メコンデルタ)の小規模養殖を比較する
と両者の間に大きな違いがあることが明らかになった。

(a)両者とも養殖は家畜飼育、果樹栽培、稲作などと組み合わせて複合的に行われているが、
ラオスの養殖は自給目的、ベトナムの養殖は現金収入目的と異なった性格をもっている。

(b)両者とも家畜の排泄物や米ぬか、籾殻などの副産物をフルに利用して農場内での物質循
環をはかっている。ベトナムは人口密度が高く土地面積が少ないため、外部から購入した
肥料や家畜用飼料などをかなり多量に投入している。これに対しラオスでは外部からの投
入はほとんどない。したがって、ベトナムの生産システムは面積あたりの生産量は多いが、
環境に対する負荷が大きく、ラオスの生産システムは生産量は少ないが環境に対する負荷も
少ないと考えられる。

(c)ベトナムでは養殖も組み込んだ生産システムを“持続的農業”と呼んで積極的に振興しよ
うとしている。ベトナムのシステムでは人糞も養殖池に投入される(ラオスでは人糞は利用
しない)。また、一部の農家では豚の排泄物を利用してバイオガスを発生させ家庭用燃料と
して利用している。しかし、バイオガス利用の装置設置にはかなりの費用がかかるため、貧
困層には手が出ない。また、貧困層は複合的な生産システムではなくモノカルチャー生産を
行う傾向がある。

(2) 今後もベトナムで何回かの現地調査を行い、ベトナムにおける“持続的農業”はどのよう
な背景で導入され今後どうなるか、環境負荷を軽減する生産システムを確立することができ
るか等の点を明らかにしていきたい。