NARC通信 第33号

NARC通信 第33号

平成23年9月10日発行


ラオスで草の根技術協力始まる

池ノ上宏

NARCはラオスのヴィエンチャン県北部に位置するフアン郡で養殖普及の技術協力を、今年の
7月から開始しました。期間が3年間、総予算が1,420万円という小規模な協力ですが、ラオス
農山村部の経済規模に見合った適正な規模と考えています。このプロジェクトはJICAによる
草の根技術協力事業募集に応募して採択されたものです。提案書の書き方、事業費積算、そ
して契約にいたるまで、JICA広尾センター(地球ひろば)による懇切丁寧な支援を受けて実
施の運びとなりました。

プロジェクト対象地域の状況
フアン郡はヴィエンチャン県の北西部に位置しており、ヴィエンチャン市内からは車で3時間
くらいかかります。凹凸の激しい曲がりくねった道を抜けると、水田と彼方にそびえる奇岩が
織りなす美しく穏やかな光景が眼前にひろがります。水田や焼畑での稲作を主、畜産やパイナッ
プル栽培などを副とするラオスの典型的な農山村地域です。郡には44の村があり、総人口は
42,000人です。44の村は5つの村グループ(クラスターと呼ばれる)に分かれています。クラス
ターのうちのひとつター・クラスター(10村が含まれる)がプロジェクトの対象地域です。昨
年、このクラスターに隣接して、大型発電ダム(ナムグム2ダム)の建設に伴って水没した村々
から6,000人が移住して新村が建設されました。郡人口が一挙に14%以上も増えたので、地域に
自然、経済、社会的に大きな影響がでることが予想されます。またクラスターのすぐ北側にナ
ムリク川をせき止めた中型発電ダムが建設されたことも地域の自然環境に大きな変化をもたら
すと考えられます。のんびりした典型的な農山村が、急激な環境変化にさらされているという
のが対象地域の状況です。

養殖普及の必要性
ラオスの農山村全体についていえることですが、農民たちは米生産に重点をおきつつも、その
ほかにさまざまな小規模生産活動を組み合わせて生活をしています。稲作農家、畜産農家のよ
うな単一生産活動で生計を立てている農家はほとんどありません。さまざまな自然、経済、社
会環境の変化に対して、多様な生産活動を状況に応じて組み合わせることによって対応してい
ます。生産活動を多様化することは生活を守るために必要なことです。養殖普及の目的の一つ
は生産活動の多様性を増し、農山村の外囲環境変化に対する対応力を強化することです。ダム
や新村の建設で急激な環境変化にさらされているター・クラスターでは養殖普及の必要性が特
に高いといえます。また、ラオス農山村では動物タンパク質の摂取がまだ十分ではありません。
人々の動物蛋白源としては魚が最も重要ですから、ラオス政府は農山村部における魚消費量を
2020年までに年間一人当たり23kgにすることを目標にしています。人々の動物蛋白質の摂取量
を増やし、健康を増進するためにも養殖普及が必要です。村民の健康増進は農山村の体力強化
につながります。

養殖普及の方法
2001年から2009年にかけて実施されたJICAの技術協力「ラオス養殖改善普及計画フェーズ1、
フェーズ2」ではRAPPという養殖普及方式が策定され、ラオス政府によって標準的養殖普及方式
として認証されました。今回の草の根技術協力にもRAPP方式を適用します。RAPPでは「農民か
ら農民への養殖普及」と「村落共同体を基盤にした養殖普及」の2つを基本方針とし、それを実
現するためにクラスター内に養殖普及のパイロット村を作ります。パイロット村では(1) 村落
養殖振興委員会という村での養殖振興を取り仕切る委員会を組織する、(2) 村落養殖指導員と
いうクラスター内での養殖種苗供給と技術指導の中心となる農民を育成する、(3) 女性同盟、
村落共同体、小学校などによるグループ養殖を進める、(4) 改善された技術を使う養殖農民の
数を増やす、等の活動を行います。パイロット村がきちんと確立されれば、展示効果や村落養
殖指導員の活動を通してクラスター内の村々に養殖が普及していきます。ター・クラスター内
の真ん中に位置するドン村をパイロット村にすることにし、7月から村民からの聞き取り調査、
村の養殖状況の把握、活動計画の策定などの活動を開始しました。

NARCの願い
わが国では都市さえ栄えればよい(かくいう私自身も都市にどっぷりつかっていますが)、都
市が栄えればお荷物ではあるが農山村地帯の面倒もみられるという考え方が支配的です。その
あげくは老人ばかりが取り残されたさびれた農山村、いったん落ちこぼれれば帰れる場所がな
い都市住民などが次々に生み出されています。「構造改革」の名のもとに都市偏重の政策をす
すめて社会をずたずたにした連中が、今さら声高に「絆」などと言っても空しく響くのみです。
ラオスではまだ農山村が都市を支える構造が生きています。農山村は食料を都市に供給し、都
市に根付けない人間は農山村に帰ることができます。しかしそのような構造が、容赦なく襲って
くる国際資本による開発の荒波の前に弱体化していくのではないかと危惧されます。農山村の
体力を強化することは緊急の課題です。NARCの微々たる活動が何らかの形で、農山村の体力強
化に役立てばと願っています。

フアン郡の風景、水田と岩山

ドン村の首脳陣